武田 前回は西垣先生に、集合知の魅力とその限界について教えていただきました。ジェリービーンズの数の推定やクイズなど、
正解が決まっているような問題は、単純な集合知が役に立つ場合も多い。
けれど、政治問題やマーケティングの課題など、いわゆる正解がない問題については、たくさんの人の意見を集めるだけでは解決できないことがある。
西垣 はい。だからこそ、そうした複雑な問題に対して、どうすれば集合知の議論が応用できるか、考えてみようと思ったんです。
そこで参考にしたのは、公共哲学の議論です。2010年に出版されたマイケル・サンデル氏の『これからの正義の話をしよう』で、日本でも公共哲学というものが、
少し身近になりましたよね。その本の元となった講義も、「ハーバード白熱教室」としてNHKで放送されて話題になりました。
武田 『これからの正義の話をしよう』は、ベストセラーになりましたね。
あの本では、功利主義、リベラリズム、リバタリアニズム、共同体主義の4つの正義について説明されています。
今回は、この4つの正義について、改めて整理してみようと思います。
まず、功利主義というのは「最大多数の最大幸福」を目指すものですよね。
西垣 そうです。集団の利益というものを一番に考える正義ですね。
例えば、ある町に新幹線が通ることになり、海辺を通るAルートと、山奥を通るBルートの2案が出てきたとします。
そのとき、どちらを通ったほうがより多くの住民の便益を見込めるか、ということを測定して決めていくのが功利主義です。
武田 海辺を通るAルートの場合の幸福度を住民の分だけ足し合わせ、それと、山奥を通るBルートの場合の幸福度と比べてみるわけですね。
西垣 対象が「集団」というのが特徴です。功利主義の欠点としてサンデル氏は、古代ローマにおけるキリスト教信者の虐殺の例をあげています。
古代ローマでキリスト教が禁止されていた頃、捕らえた信者をコロッセウムでライオンに食い殺させるという見世物をやっていました。
観客は何百どころか何千人もいたかもしれません。でも、殺されるキリスト教徒はせいぜい十数名ていど。そうすると……
サンデル教授が主張する“これからの正義”とは何だったのか 【西垣通氏×武田隆氏対談2】|ソーシャルメディア進化論2017|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/78959